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冬の吐息は珈琲の匂い。冬の足音は三本足。

 はろーえぶりにゃん! 応真です。一個前の記事が自分で読み返すのも嫌でね、『こんなのいつまでもトップに置いとけねぇぜ!』ということで書きかけだったお話を書き上げました。リューニャーさんとの不定期連動企画『不行市』ですね(企画と言いつつお互い気が向いたら書くだけなんですけど)。

 今日は誰の話でしょうか。そろそろマイキャラの話も進めたいんですけど、書きたいことがキレイにストーリーとして纏まらないんですよねー……。

 閑話休題。では、どうぞー。
 朝と昼の間の曖昧な時間、私は目を覚ました。顔に当たる冷たさで部屋中に冬の空気が堆積しているのが良く分かる。
 昨日の男は既に帰ったようで、ベッドには一人分の体温しか残っていなかった。だらしなく脱ぎ散らかされた自分の服を集め、袖を通す。相手の服にまで気を使おうという輩は最近減ったように思う。
 きっと流行らないのだろう。
 この宿の中で時の流れ相応に変化していくものといえば、足を踏み入れる男たちくらいなものだ。同じ男を何十年と相手にしてきた訳ではないが、それなりに数をこなすとしとねを共にした相手のどこまでが一般的として取れるのか、どこからがオリジナルなのか、なんとなく分かるような気がする。
 サイドテーブルの上にぽつんと置かれた煙草とライターを見つけた。取り出したは良いが灰皿が無いのに気づき、そのまま忘れていったのだろう。珍しくも無いことだがそうやって置いて行かれた煙草の箱もとうに10箱を超えている。また来た時にでも返せばいい、と思って取ってはいるのだがここに二回足を運ぶ客というのはほんの一部だ。そろそろ捨ててもいいだろうか。
 
 凍える息を感じながら新しい忘れ物を棚に置き、代わりに一番古いものをゴミ箱に投げ込む。ごとん、という重い音がしたので再び箱を取り出して覗いてみた。……ライターか。ライターというのは何ゴミなんだ?
 数秒考えたが分からないのでテーブルに置いておくことにする。次に来た喫煙者にでも訊いてみればいい。
 ぼんやりする頭を揺らし、コーヒーを入れにキッチンへと向かう。フローリングの冷たさが一歩ごとに足を這いあがり、尻にたどり着こうかというところで目的地に着いた。コンロに火を入れてから湯が沸く間、何となく先ほどの思考がセミオートで頭蓋骨の内側を擦り歩く。
 ここにくる男、その『一般的』な部分は微妙に変わるのだ。少し前まではズボンを中途半端な位置で穿いていたり、最近は頭の両側だけ短く刈り上げていたり。ファッション以外にも話題や仕草で、その変化は知ることができる。人間、自分の意志でやっていると思っているのは自分だけで、案外周りの影響を受けているものなのだろう。
 ふと、ある男を連想した。自分を変えたいと言って髪を染めた男。あいつはどこかで、髪を染めて変わった、あるいは変わったつもりになっている人間を見たのだろう。変わりたいという意思は自分のオリジナルでも、そのための手段が模倣なら上手くいかなかったのも納得だ。
 ぼこぼこ、と液体の沸騰する音で意識をコーヒーへと移す。客に出すのはブレンドだが、私一人で飲むときはそうでもない。今日は頭をスッキリさせるためにエチオピア産のモカにしておこう。粗惹きの酸味も好みだが、やはり寝起きという事もあるので尖った味は避けて中挽き。手に取ったモカの瓶はその内容物のほとんどを失っており、今にも息絶えそうな頼りない冷たさをもって私の左手に落ち着いた。
 コンロの火を止め、残った豆をすべてミルに放り込む。これを飲んだら買い足しに行かねばならないだろう。
 豆を挽き終わり、ドリップの準備を終える頃にはコーヒーポットの中の沸騰も収まり丁度いい温度になっていた。先にコーヒーカップにお湯を入れて温めながら豆の抽出に移る。熱湯を含んだ豆がふんわりと膨れ上がり、フィルターからこぼれんばかりに立ち上がる。既に広がっていた豆の香りがより生々しいものへと変わっていくようだ。コーヒーというのは勿論飲むためのものなのだが、この瞬間というのは何とも充実感を感じる。

 コーヒーを堪能した胃袋が次は固形物を所望している。順番が滅茶苦茶だが、今更気にしないのは私も、私の胃袋も同じだ。コーヒー豆を買いに行くついでに何か食べることにして上着を羽織り、適当なマフラーを手に取った。……これも客からの土産ものだったはずだが、ここ数年はそういうものを持ってくる男も減ってしまった。ここで行う行為への後ろめたさや相手への愛着が薄れた、いうなれば『行為だけ』の関係が当たり前になってきているのだろう。とはいえ私自身『何の対価もいらない』と言っている以上、別に構いはしないのだが。



 30分ほどかけて繁華街に入る。適当なチェーン店で昼食を済ませてなじみのコーヒーショップへと足を向けた。
 奥まった裏路地のさらに奥。私が世話になるにはあと30年はかかりそうな婦人向けのアパレルショップの下にその店はある。この店には数年来世話になっているが、いまだに店の名前も解らない。なんだかぐちゃぐちゃした筆記体の看板を横目に細い階段を降りる。かつ、かつ、という靴音が壁に反響し、一歩ごとに鋭くなっていくようだった。
 「よぉ、久しぶりだな姉ちゃん」からん、とドアに取り付けられたベルの情けない声に応え、この店の主が顔を上げた。いつものことながら客がおらず暇していたのだろう、70代と思しきマスターはカウンターに腰掛けて売り物の本を読んでいた。
 この店はコーヒーショップなのだが、同時に本屋でもある。様々なサイズの背表紙がぞろりと全ての壁を埋め、ある種の威圧感すら放っていた。マスターは長い白髪を揺らして読んでいた本を棚に戻し、カウンターの奥、本来の位置へと収まる。
 私はカウンターの一番奥の席に腰掛けた。特に決めているわけでもないが、初めにこの店に来て座って以来、なんとなくお決まりの位置になっている。
 「今日は良い豆が入ってるぜ。飲んでみるだろ?」マスターは年甲斐も無く、というべきか期待したように両手をカウンターについてこちらを見た。
 「またルアック・コーヒーか? 道楽もほどほどにしないと店を潰すよ」
 ルアックというのはジャコウネコの体内で熟成された特殊なコーヒーで希少性が高い。もちろん独特の香りも人気が高く値段もそれ相応、普通のコーヒーの五倍以上も日常茶飯事だ。このマスターは手に入るとなると大量に買い付けるのだが、たかだか200gのコーヒーに数千円払う客というのもそう多いわけではない。こうして私に声をかけてくるのも一度や二度ではなかった。
 「は、この店が潰れるのはこの街からコーヒーの味が分かるやつがいなくなった時だけだぜ」「そうか、では長生きに励んでくれご老体。私より先に死なれては困る」
 マスターは磊落に笑うと本題へと戻った。
 「今日はオールド・ビーンズだ。ちょっと待ってな」客の答えも待たず豆を挽き始めるマスター。銘柄も何も訊きはしないのだが、私の好みは十分伝わっているはずなので黙って任せることにする。
 「オールド・ビーンズってのは収穫して長期間熟成された豆のことでな、今回のは8年ものだ。まぁ飲んでみな」そう言って差し出されたカップはいつもより一回り小さかった。さっそく口に入れてみると、どろりとした感触が口に広がった。
 「?」
 だが一瞬の後、舌にはさらさらとした液体しか残っていなかった。香り、深みの濃厚さに粘度を錯覚したのだ、と遅れて理解する。感触を理解してなお、その香りが質量を持って鼻腔を抜けていくようだ。
 「……驚いた」最初は濃厚、と思ったが少し違うかもしれない。濃いのではなく密、という表現の方がしっくりくる気がする。
 「どうだ? 美味いだろ」そういうとマスターはチョコレートを載せた籠を私の目の前に寄せた。サービスの茶菓子みたいなものか。毎回出してはくれるのだが、生憎手を出したことは無い。
 「あぁ、美味しい。……が、今日はモカをくれ」
 「なんだ、買ってってくれないのかい」
 マスターは少々残念そうにしながらも豆を用意するために棚を物色し始めた。商売人としてはそういう態度を客に見せるのは良くないのだろうが、私はその正直さをむしろ好ましく思っていた。
 「悪いけどブレンドを作りたくてね」カウンターに見え隠れする白髪に声をかける。口に出して『言い訳がましかったかな』と少し後悔した。
 「あぁ、なるほどな。そりゃ合わねぇわ。ま、サービスしとくぜ」
 受け取った袋には注文のモカと、その半分くらいの大きさの包みが入れられていた。
 「それと同じコロンビアだ」「ありがとう」それからは特に会話も無く、残りのコーヒーをゆっくり堪能した。
 帰りに飲んだ分のコーヒー代金も払おうとしたのだが、
 「野暮言ってんじゃねぇよ。今後ともご贔屓にな」
 と一蹴されてしまった。ツンデレというやつだろうか。元気な爺さんだ。
 私は改めて礼を言い、店を後にした。

 少し雲のある空の下をのんびりと歩く。相変わらず気温は低く、すれ違う人々も首を縮めるようにして下を向いていた。
 我が家まであと少し、という通りを歩いているとどこからか細い、小さな声が私を呼び止めた。
 「?」
 いや、別に名前を呼ばれたわけではない。が何とはなしに足を止め、周りを見渡す。声の主は数秒足らずで見つかった。
 道路の反対側、電柱の下に置かれた段ボールの中で子猫が震えていた。ご丁寧にも段ボールには『拾ってください』とマジックで書かれている。
 「なんだ、テンプレみたいな捨てられ方をされてるな。お前」猫は顔を上げる元気もないのか、ただ震えながら「みぃ」と小さく鳴いた。
 「ま、いくら鳴いたところでお前コーヒー豆喰えんだろうしな。拾ってやる気も無いんだが――」話しかけながらしゃがみこんでみると、下げた視線があることに気が付いた。「ん、お前……」
 少し気が変わった。私は巻いていたマフラーを取り、猫をくるんでやった。筋張った身体はふるふると震え、抵抗する元気もないのか、猫は私にされるがままだった。
 「お前なかなか生きにくそうだし、やるよ」拾う気も無いのに中途半端な情をかけるな、と言われるかもしれないが、そんな台詞こそ安全なやつらの思い上がりだ。明後日まで生きられないとしても明日を望むのは生き物として当たり前のことだ。
 最初から自分一人で生きられるやつなんていないんだから。
 「じゃあな」言えるのはそれだけだった。その言葉にはまたいつか会おうという気持ちと、もう会えないだろうという意味との両方が含まれていた。私は今度こそ家に向けて歩き出し、振り返ることはなかった。



 ごうんごうん
 芥子は洗い場のフローリングに座り込み、唸る洗濯機の音を聞いていた。
 すりガラスを透過する日差しが少しだけ暖かい。私は洗濯機の低く単調な音が嫌いではなかった。
 お腹の奥まで揺らす響きに思考を預け、何とはなしに先日書いた絵本のことなどを考えてみる。一応はそれでご飯を食べている身なので、また次の作品も考えなくてはならない。
 と、洗濯機とは違う音が廊下から聞こえた。
 ト、トト、トト、ト
 リズミカルというには少々不格好な、廊下を軽くたたく音。その音で、私は来訪者の予想がついた。
 「おいで、ますはな」
 座ったまま廊下に半分だけ顔を出し、音の主を呼ぶ。音は一瞬ためらうように止まり、ペースを上げた。すぐに視界の端から一匹のキジ猫が姿を現す。
 「よしよし、偉い」
 ますはな――漢字で書くと『舛花』――は一年ほど前に奨が拾ってきた猫だった。名付け親は奨。猫をくるんでいたマフラーの色を『舛花色』というらしい。彼は本当にいろんな色を知っている。画家なのだから当然の素養なのかもしれないが、素直にすごいと思う。
 私を見上げる舛花を抱き上げると、彼は少し居心地悪そうにしながらも抵抗しなかった。拾われたときはまだ本当に小さくて、生まれて1、2週間だったと思う。彼が生まれて間もなく捨てられた理由には予想が付いた。
 彼には後ろの左足が欠けていた。
 獣医さんは先天的な発達障害だろう、と言っていた。どうして奨が舛花を拾ってきたのかは分からない。本人に訊いても
 「特に意味は無いよ」
 というばかりで納得させてはくれなかった。そんな適当に生き物を拾うなんて、と怒る人も居るかもしれないが(奨の言葉が本心かどうかはともかく)、私は命というものは尊くても、過大評価するべきじゃないと思う。
 夏に蚊を叩き潰すのだって命を粗末にしているし、毎日の食べ物だって私たちの想像する以上のコストがかかっているそうだ。命は儚い。だから、気まぐれで助かる命なら助かっても良いと思う。
 それに、私は舛花になんとなく――こういうと語弊があるかもしれないが――親近感を覚えた。それはやっぱり、足が無いから? それとも――、見るからに生物として劣っている、から? ひょっとして私の言う『親近感』は、ただの優越感なのだろうか。

 その時、一際高い音を立てて洗濯機が作業の終了を告げた。突然の音に驚いた舛花は身をよじり、私の腕から逃れて行った。
 視界から走り去った猫と、腕の中に残った体重を比べる。無くなった足の重さなんて分からない。いや、生まれた時から無かったのだから分かりようも無いのかもしれない。
 欠けているとはどういうことなのだろう。
 「……ふぅ」
 洗濯ものに意識を移し、迷路に入りかけていた思考を無理矢理切り替える。如月の空気は冷たいながら、清らかな青さが心地よかった。
 私は洗濯かごを持って引き戸を開ける。凛とした空気を大きく吸い込む自分に、陸であえぐ魚を想起する。やっぱり私は舛花に親近感を覚える。それが何かは分からないけれど、私も何かが欠けているのだ。
 この空気がしみ込んで身体も脳味噌も綺麗になればいいのにと、そう思った。奨も毅もそんなことは思わないだろう。舛花はどうだろう? あるいは、舛花を捨てた人はどうだろう?

 答えは出ない。私は自分に欠けた何かの重さを感じながら、小春日和の中に泳ぎ出た。



 はい、ということで。リューニャーさんとこの『ツキ モエ(仮名)』でしたね。彼女にとっては特に何という話でもないのでしょうけど。ただ冬はやっぱり冬の話が書きやすいなーと思いました。(何の話だ)
 次の話はいつになるのかな? わかりません! リューニャー先生にこうご期待!(オイ
 ではではー。
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No title

こんにちは。更新お疲れ様です。

いやー、応真さんに先を越されてしまいましたね。まぁ当然の帰結といいますか、僕は何もしていない状態でしたからね、ええ。

ツキモエは読み手によって姿が変わる、と以前僕のブログに書きましたが、書き手によっても姿が変わることがよくわかりました。いや、話し方や地の分がどうとかではなく、僕の書く彼女と、応真さんの書く彼女、なんだか僕の中では見た目が変わるんです。違和感だとかこうじゃないだろ!とかではなく…上手く言語化できないのにコメントしちゃった!てへぺろ。

ライターはガス抜きをするのは共通ですが、自治体によって捨て方が違うようです。そのままゴミ箱にシュゥゥゥーッ!しちゃ駄目。

それでは~

Re: No title

>リューニャーさん

 こんにちは。コメントありがとうございます。
 へへへ書いちゃいました(^^ゞ

 そうですねー、私が書いてて意識したのは『シンプル』であること。考え方というか生き方というか。
 違和感ありませんか? 大丈夫? 私は読み返して『イケメン過ぎない?』とか思ったんですけど。叙述トリックできそう。

 やっぱりシンプルイズベスト、マッチが最高ですな! 音も良く、趣もありますし!
 ではではー。
プロフィール

応真

Author:応真
このブログにおける掲載物の一切の転載を禁止します。

Mail→magokoro914☆yahoo.co.jp
(↑☆を@にしてお使いください)

PSO2:1鯖→OUMA 不定期。昼間に時間が取れればやるかな?ただ今EP1で育成中。

ゲームして、お絵描きして、読書して、たまにパズル雑誌。毎日が足りない!

ついったーにbot作りました→@bouyou_bot

※記事中で断定的な物言いをする事もありますが、あくまで『私の意見/思想』と割り切って書いてます。至らぬ部分はご指摘いただければ幸いです。

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